2017年11月16日木曜日

池松

音楽について。音楽についてを何か書こうと思った。よく見に行っているからだ。それで、行った記を書き連ねていこうと思った。
ところがどうだろう。ここ2ヶ月程は色々とあくせくしていたせいか何なのか、仕事とものづくりをするほかはほぼ池間由布子が出るライブにしか行っていない。といっても10回近く見ている気がする。平均すると週一回だ。だから色んな人とちゃんと会っていなかった。
池間、池間、と書くとしつこいので、ここからは池松さんという架空の人のライブを架空に見に行っていることにする。私というのは北川さんのことであって、つまり間違いなくフィクションである。文というもの、つくりられたものが全てフィクションであるという前提が無くても間違いなくフィクションであり、実際はタラ・ジェイン・オニールのライブにも行っている。なんかごく小さなバーで延々とグルーヴを続けながら声とギターが乗るマヘルも、久しぶりに見た。シンラのイベントでDAMON & NAOMIも見た。素晴しかった。渋さも生活の一部として見ている。

さて、私は今日も架空に行った。架空では時間の流れ方がゆっくりだ。時々、早すぎて何が起きたのかよく分からないこともあるけれど、それだからあまり記憶に残っていない。時々なにかのきっかけで急に思い出す、肌が思い出す。あるいは、全く時が止まっているようなこともある。お客さんが少ないときは特にそうだ。それはそれで何も起きていないから印象のなかでは一瞬だけれど、のちに思い出すとじっくりした時間だったように思われる。
ところで実際に時を止められるとどう感じるのだろうか。印象が飛び飛びなのに、確実に時間は経っていると。激しいトリップに通じる。しかし忙しく過ごしていると、そんなものかもしれない。色々なことを忘れる。忘れるからいいというものもあるけど、忘れてはいけないものも忘れている。

池松さんのうたは、絵画みたいである。モチーフが、情景が移ろう。心象と具象、内省と発話が入り混じる。描きながら変える。ペインティングというよりドローイングか、あるいは鉛筆画、シンプルな色数、しかし諧調は繊細で深く、そんな声。ギターは木に硬質の弦が響いている。
「明るい窓」という曲は数回しか聞いたことがない。アルバムのタイトルにしているのにアルバムに入っていないというのはいうのは何だか気持ちがいい。明るい窓を見つけた、という曲。朝の闇に光る明るい窓であり、昼の陽のなかにある明るい窓で、そうした矩形に色々な時間が行き交う。ことばが旋律に刻まれてく。
あるいは踏切のうた。総武線が事故で止まった日の小岩でのライブのときにうたっていた。何か、日々の、きわのようなところを描いている。その踏切の音だけは、音だけは、聞いては、いけない、と文字にすると怖い。景色が止まった、人たちが止まった。誰が見ている景色だろうか。池松さんだろうか。やわらかく、切ない感じ。
ゆっくりと、ドリップしているような感じがする。
もう少し書こうと思うのだけれど、いっときにそうすぐに出てこない。
そんなうたが折々に、歩いていると、ふとあたまに繰り返される。夜に、朝に。

池松さんがうたうと何か空気が静寂になる気がする。その空気にも耳を立てているのだろう。四方にヒゲを伸ばした青年が池松さんに、池松さんは 思いのままに、心のままにうたっているのですか、そうであるのだろうけれど、どこか、醒めた耳というか、うたってギターをひいて、加えて何かあるような気がしますよね、といったことを話していた。たしかにそうなのだろう、醒めて俯瞰する耳や目があるのだろう、けれどそれは、ふつうのことかな。池松はうーんと言っていた。
その一方でシャラポア野口は「銭湯ー!!!」などとギターの弦が切れるまでノドを枯らして叫び倒している。空間の密度を限界まで詰めようとしている。同じ会場でやっても、この違いは何なのだろうか。彼のとる間は、狂気じみた漫才のようだ。けれどそれはそれで、空気を聞く耳があるのだろう。というか皆そうなのかな。
お客を見ていると、野口のお客はゲラゲラ笑って野口を遠巻きに見ているけれど、池松のお客は熱心に聞き入るひとが多い気がする。それが静かなのだろうか。
お互いによく知らないのに、というかほぼ違うのに勝手に比較されては困るだろう。けれどこれは架空の話である。

職場で夜に人が少ないからパソコンでそんな池松さんのうたを流していると、北川さんがヘンな曲ながしているから・・・と、いぶかられる。何がヘンなのか分からないのだけど、傍目で聞いたらそれは、ある種の幽霊みたいな感じがするのかもしれない。けれど表現は闇から出てくるものだし、とても普通だと思うけれど。西丸震哉の随筆にはふつうにユウレイみたいな話が出てくるが、そんなような普通かもしれない。山とお化けと自然界か。あるいは、畑に大根を抜きに出てくるタコのハナシ。ヘンとか普通とか言い出すときりがないが、そんなことを考えるとどんどん視野を狭めるからよろしくはないと、ウォーホルも言っている。

夜に急いで仕事を片付けて小さな架空のライブハウスへ行く。急ぎ足に歩いていると雲間に満月が出ている。開演前に着いたから表でタバコを一本すう。ちょうどドアから、一服しに池松さんが出てきてニヤと笑う。面々と豪放に笑う。見ていると同じ人が幾人も、いつもきているようだ。私もさいきんその一人なのかもしれないが。角刈りの男がいて、パーマの男がいて、宇宙的な男がいる。ほかにもややハゲた人などもいる。何となくたむろし、酒を飲み池松さんと言葉をかわす。

星になったのさ、星に、なったのさ。星になったのさ。と池間さんが伸びやかに歌ったのがアタマに繰り返し口をつく。

次は、お客である彼らにインタビューをしていこうと思う。架空の。
















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