2011年8月6日土曜日

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海辺の・・・

海辺には、私と・・・二人がいた。海辺では彼女は、手を振って、私を掘って、掘り
出して、とホモの女役のようなことを言っていたが、彼女はたしかに、女だった。別
の男も証言している。彼の名前は、出さないが。
私は、彼女を掘ろうとした、砂の浜に手を挿して、一枚一枚、かき分けて。
彼女は、私の原稿だった。初めて書いた長編小説。だから「彼女」というのは私の妄
想であるのだが。

ここで一つ、妄想、と、長編小説、について考えたい。
妄想というものは、大人の、何か性的欲望に関するものだろう。字面が妖しい。イメー
ジが疾しい。
長編小説は、小説とは何か、という問題がある。そして、長編ともなると、何だか抽
象的に思えてくる。空の雲を適当につかみだして、ほら、新作が出来た、と言ってい
るような。

彼女がこちらを振り向いた。小説のくせに、いやに人間くさいが、しかし小説は意外
と、人間より人間くさいこともある。だからそんな彼女を許容した。

3メートルくらい先、こちらを向いて何か待っているようだ。目つきが、悩ましいよう
な。そうでもないような。

そうだ、私は不意に思いついた。「子どもの妄想」って言葉は、どうだろうか。妄想
は子どものものではない。けれど、子どものイメージ力は、大人より余程素晴らしく
自由で突飛だ。例えばお母さんが野に飛び回ったり、怪獣がビルの上に住んでいたり、
かと思えば自分はぴゅんと宇宙を飛んだり、好き放題何でもありだ。

ありがとう小説。ありがとう今夜。

そう思った。けれど、小説は浜のあちらで、まだ足を組んでほのぼのとしている。幽
体めいて。おい、泳ごうじゃん、そう声をかけると、
「泳ごうって言ったのは、私じゃない。何で、いつもそう都合がいいの、私をさびし
くさせるのばかり、上手なのね」
というと彼女はすっと起き上がり、裸身を煌めかせて波間に飛び込んだ。
「別に、いいんだけどね。じゃあまたね!」
そう言うとどんどん彼女は、音も無く泳いでいく。影がどんどん遠のいていく。
私があわ、どうしようかな、そう考えているうちに。
よし、泳いで追いかけよう。

その前に、タバコを一本吸おう。私は鞄からタバコを出した。くわえるが、火が見当
たらない。手は鞄を探っているが、なかなか見つからない。少しして、今日はライター
を持ってないんじゃないかと思い当たるが、手はまだ中を探っている。
はて、ズボンのポケットには入れてないだろうし。。
そう思いポケットを探ると、奥に小さなライターが控えていた。

火をつけて、ようやく吸う。吸い口は、少しくわえていたせいで、よれっ、としてい
る。彼女を思い海を見やるが、もう姿形が見えない。どこにいったのかな。

タバコを吸いながら、眼で海の先を追っている。空も水も美しかったが、全然記憶に
ない。ただ波間を、遊ぶように泳いでいったあの人だけを、勝手に思い出す。

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