2023年1月7日土曜日

昨年よかった本

・ラーナー・ダスグプタ『ソロ』

 小説ってこんなに面白いんだと久しぶりに思い出した。ソロの演奏の場面や生命がリンクする感じがすごい。しかし細かい内容は覚えていない

・チャトウィン『黒ヶ丘の上で』

 静謐なのに、どこまでもドラマティックというか、リズムがすごい。ガルシアマルケスの100年というのがあるけれど、まったくまともな100年。しかし双子というのが不思議な装置なのだろう。住んでいる地域を「面影」と邦訳しているのがとてもよかった。チャトウィンは映画も素晴らしかったし、もっと小説があればいいのにと感じる。あ、『ソングライン』も素晴らしかった。

・エンデ『ものがたりの余白』

 エンデももっと読んでみたいと思って岩波現代文庫を揃えたが、思いの外硬質すぎて、なかなか入り込めない。エッセイをつらつら読むのがとてもいい、箴言みたいな。それで語りのこの本が結局とてもじんわりしみた。

・しりあがり寿『マンガ入門』

 うれしくもしりあがりさんと遭遇することが出来て、その後読んだ。構成や作り、あの朦朧としたセンスが、ほんとうに好きな作家なのだけど、評価が追いついていないと感じる。本もそう売れないのだろう。とはいえ、ぬきんでている。とても仕事のできる方なのだとも一方で思い、そうした仕事やマンガの作り方が淡々と、とても上手に描かれていて大切な本な気がする。

・オルガ・トカルチュク『優しい語り手』

 『逃亡派』だったり『夜の家、昼の家』だったりいつもタイトルが抜群に好きなのだけど、内容もとても好きだ。旅がある、ヨーロッパらしい。

・アンドレア・バイヤーニ『家の本』

 構成がツボすぎた。「家」が主体で「私」を客体でみるという語り方にとても惹かれる。読みにくくて疲れるのだけど、だんだんと抽象的な「私」の像が近づいたり遠ざかったりして、愛おしくなる。

・ウィリアム・モリス『小さな芸術』

 100年以上前の講義録。疲れた。疲れたのは、その時代の話している情景を想像するのが大変だったからだろうか。あるいは話自体がどうも冗長で面白くなかったのだろうか。けれど曇りのない感じの語りに、ときにとても大切なメッセージを感じた。労働への誇り。楽しみ。それだけの粒度で、生活を見れていますか? かんの発泡酒を大量消費するばかりの日々に私たちは絶対見れていない。

尹雄大『親指が行方不明』

 尹雄大さんのテキストには不思議な呼吸があって、はまり出すとそのまま止まらず一気にいってしまう。それはすごい力なのだと感じる。こういう、どこか中道から外れたという感覚は、誰しもグラデーションであるもので、そこに視線がいったり行かなかったりする。などということを思うたびに、この方の本や書いたものを思い出す。

・田村隆一『ぼくの憂き世風呂』

 こんな語り方があったのかと驚いたけれど、うますぎる。洒脱でいやみがない。とても豊かな内省と対話の世界に、もっと今の人も影響を受けてもいいのではないのかと思ったので、何かにつけ参照してみて書ければとは感じる。

・池内紀『見知らぬオトカム』

 ひさしぶりに立ち寄ったカウブックスで、ふと見つけた。辻まことのことをよく考えている。これだけは読んでいなかった。あれだけ色々な分野のすきま、というか狭間から何事かを見ている視線と、それを描き出す術なのか。もっとこういう表現を自分がしていければいいな。

・『地図の記号論』

 金沢にいったのでオヨヨ書林に立ち寄ると、ふと目があった。「地図」についての本や語りにいつも惹かれるのは何故なのだろう。知らぬ作家さんの、戦時中の地図だったり。北海道のある街の見取り図だったり、上野の話だったり。いい。


思い出せる範囲で印象だけで書いてみたけれど、本当はこの倍くらいあったような気もする。しかし印象ばかりで内容をいかに覚えていないのか気づく。そういう感受性なのか。『ウェルベック発言集』は面白かったけれど、どうも馴染まないし読みにくい話も多かった。

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